Contents

 

 1  現状を診る 最初に現場調査を行います。

 2  見えない”病”も診る 危険な個所は概ね隠れています。

 3  補強や改良プラン 再発を抑える方法や改良工法も提案します。

 4  プレゼン 1⃣診断・修繕仕様  お客様、設計者、施工業者が一つになるツール。

 5  プレゼン 2⃣デザイン・カラー 魅力的に生まれ変わりましょう!の”見える化"

 



 

-1 現状を診る

最初に現場調査(※1)を行います。

 

Inspection 建築物の調査診断を「インスペクション」といいます。目視や打音などで調べ、撮影やサンプリングで記録します。

  下の図は築20~30年経過で現れる様々な”症状”で、目視で分かりやすい事例です。図にはありませんが、他にも見えない劣化や損壊が潜んでいますので、見落としないように調べます。

 

遠隔地物件やテレワーク(※1) 工事業者さん任せではなく、地域の営業担当者さん自身で現場調査と撮影を行うケースが増えています。それら(※2)を基に、プレゼンテーション・ツール(診断・修繕仕様、カラーデザイン)にまとめます。

 

※1 遠隔地・テレワーク現場打合せはできるだけ控え、電話、メール、SDカード等の媒体利用が主となってきました。

※2 調査・診断撮影:撮影画像は物件あたり100コマ前後、容量はショットあたり1~10MB。撮り方に簡単なルールを設けます。

 

 

 

”危険・気味悪い・汚い”も

 下はアパートの『3K』ですが、これらのマイナス因子一掃も空室対策には欠かせません。

 左から:期限切れ消火器(函収納を推奨)/吸殻と段ボール⇒入居者に火災注意/ポリタンク⇒放火抑止/残置自転車(パンク状)~敷地放置物⇒撤去


 

-2 見えない”病”診る

危険に直結する個所は概ね隠れています。 

 

 上左:窓下のわずかな腐食⇒部分的な外壁再建が必要

 一見、2~3個所の腐食跡と一部の表層剥離、・・・軽いレベルに見えます。その部分を掻落し(※)始めると、どんどん下に横に広がり、腐ったような綿状を露わにします。外壁再建が必要なので、壁内の木枠、断熱材、防水透湿シート・胴縁、そして壁材の順に貼替え、目地周りを防水コーキングし、塗装仕上げ・・・これが標準的な修繕仕様です。     撮影用の作業です。通常は上のような「掻き落とし」ではなく、目視調査のみで行います。

 

 

 下5点:シロアリ被害!⇒再建と再発予防

 シロアリは湿った木材と暗いジメジメ環境を好むため、一般的に外壁内部で活動します。湿った状況は壁内浸水や結露によるもので、被害の多くはサッシ周りや外壁下端に発生します。通説ですが、戸建ての場合は1年で1mほどの速さで蝕みながら進むといわれています。

 

 アパートはオーナーが別の所に住んでいる場合が多いため、羽蟻の目撃や他の痕跡発見の報告が来ることはありません。下のような事例は調査時に見つける場合がほとんどです。

 

 蟻害の診立ては、喰カスなどが散乱してない限り簡単には見つけられませんが、”消去法”で考えると判る場合があります。腐食や凍害では、その周りに原因が見えるものですが、それが無いにも関わらずキズや変性があるときは疑ってみる、という方法です。

 上の左から2番目は、サッシ周りの腐食が上部に及んでいることで、次の3番目は地面に外壁が接していることで疑いやすい状況ですが、それ以外の3点は「そう診るしかないか!?」と消去法でやってみます。下はそれらの外壁(※)を再建する様子です。

同一壁材はほとんど製造終了のため近似品を使用しています。

 

下:鉄骨に外壁材の囲み貼り?!⇒膨れた鉄サビが外壁を壊す⇒補強と再発防止

 建物の見映えを良くする目的で、鉄材を外壁材(サイディング材)で囲み貼りするケースをかなり見かけます。このやり方は鉄骨に生じる結露の発散経路がないため腐蝕しやすい状態におかれます。また防錆塗装も手が届かないため、できれば避けてほしい工法です。下左3点は、ボロボロに腐ってしまった様子です。

 目視では外壁の劣化や反りにより、鉄材から少し浮いている”だけ”のように見えますが、実際は隠れている鉄骨側に損壊があります。見逃しはもちろん、軽く見てはならない”大病”です。

  上の各2列目は外壁を剥がした後に現れた鉄骨の柱や梁部分です。階段や通路全体の重量を支える大事な構造体ですが、残ったわずかな部分で支えています。修復+改良法は、損壊部分を溶接補強し、外壁貼りは通気用の隙間確保のため底面には貼らずに収めます。


 

-3 補強改良法

再発を抑える方法や改良工法も提案します 

 

 上:【改良】通気閉塞による腐食⇒壁内の換気を促す

 アパートの階段は、屋根や庇のない鉄骨構造と不十分な壁内通気が大半のため、上左のように手摺壁やその周りが傷んでいる光景を見ます。寒い地域の特徴的な現象です。この状態は、原状回復の方法では再発しますので、上図のように、壁内鉄骨の結露や滞留湿気の換気を促す改良工法を提案しています。 

↘下の画像は、腐食した通路手摺壁を剥がして見たアルミ枠材の状態です。降雪の後ですが、アルミ枠材にかなり水滴が付着しています。下左から3番目がその改良工法で、壁の上端を切り欠き、スリットのある通気器具を取付けているところです。

 

下:【改良】階段踏面モルタルの劣化⇒防水防滑シート貼り

 これも屋根なし鉄骨階段でよく見かけます。踏板(踏面とも言う)にコンクリートを流し込んだ形状ですが、経年劣化で表層の玉砂利が脱落し、安全とは言えない状況です。水はけも悪く鉄骨材を傷める原因にもなっています。

 改良は、荒れた表面を接着力のある下地材で均し、滑りにくい樹脂シートを被せ、周りをシーリングして完了です。このシートの材質はプールサイドの床張りに使われるものと同じものです。

 

下:【補強傷みやすい下端や出隅を板金でカバー

 外壁材下端と底枠の接する部分と出隅部分は雨が溜まり腐食が起きやすい個所です。補修は塗装のみかパテが一般的ですが、その方法は再腐食が避けられないため、下端には水切りを、出隅にはL形加工のガルバ鋼板(※)補強を推奨しています。

ガルバリウム鋼板 「日鉄」の製品名で、鉄板に施すめっきはアルミニウム55%+亜鉛43.4%+珪素1.6%の合金を用い高い防食性を発揮。開発社の実験では皮膜寿命は塩害地域で約15年、工業都市や田園地帯で約25年以上との結果(メーカー保証ではありません)。外壁や屋根材、雨樋、ベランダ周囲など建築材料として近年使用が増加している。

 

下:【交換】「跳ね出し梁」の無いバルコニー⇒アルミ製と交換

 下に柱のないバルコニー(ベランダ)の構造を「跳ね出し」と言います。柱の代わりに梁構造で支えるため、出幅の倍の奥行で梁長が必要ですが、ナント・・・ありません!

 現況ですが、床防水の破綻により周囲の木材が腐り、手摺壁上端の止具も抜けかかり危機的状況です。

 原状回復は不可能なため、アルミの既製品に交換を提案します。下はその施工の様子です。

 

下:【改良基礎巾木の汚れ⇒水切りの取付け

 木造一般には外壁下端とコンクリート製の基礎巾木の境に水切り(※)がありますが、軽鉄造りや土台ナシ工法など一部のメーカーではそれがないものもあります。耐力構造上の問題はありませんが、営業物件である以上、見映えの良し悪しも大事ですので、現場で加工し取付けます

 外壁目地からの浸水や滴る雨水が原因のため、外壁つなぎ目の防水シールを交換し、壁からの滴りは水切りで防ぐようにします。汚れた基礎巾木はコンクリート専用塗材で塗装します。

 水切り 外部回りの突出た所にかかる雨水が下端に回り込まないよう上裏面から下げて仕上げた部分や溝。また外部回りに設けられる窓・出入口枠の下枠に付ける細い溝。雨水などが枠の下面を伝わって壁面に汚れを作らないよう、また内部への浸水を防ぐために設けるもの。木造では外壁から伝わった雨水が土台に侵入しないように土台水切りを設ける。(出典:住宅建築専門用語辞典)

 

上:【補修/改良コンクリート表層の凍結剥離⇒表層の打替え、または防滑シート貼り

 下地コンクリートとモルタル上層との間に浸水し、それが凍結膨張により表面損壊を起こす場合があります。

 修復は表層を除去し再びモルタル仕上を行う原状回復と、樹脂製の防滑シートを平坦化作業の後に貼る改良法があります。

 

下:【改良排水桝のないタテ樋⇒浸透桝の設置

 「浸透桝」は、雨水排水設備がない場合に”底なし”の排水桝を埋め、樋からの雨水を地下に浸透させるコンクリートや塩ビ製の排水装置です。

現況ではタテ樋が真っ直ぐに地面に向いていますが、滞水や凍結などで建物には良くない状態です。

 降雨量にもよりますが、桝の深さや位置の工夫で一般排水桝のようなはたらきも充分期待できます。

   

下:【改良劣化の進んだスレート葺き⇒『カバー構法』

 スレート葺きで築後30年経過した表層の様子です。一部が脱落し、端部に苔なども付着しています。経年で脆くなり損壊や亀裂が入りやすい状態のため、通常の塗装保全は適用できません。

 別の手段として、この上に『カバー構法』(一般には「工法」という文字)といってガルバ鋼板の形成葺材を被せる方法があります。葺き替えより安価に短期で施工できるため、最も利用されている工法です。


 

 

-4 プレゼン 1⃣診断・修繕仕様

 お客様、設計企画者、施工業者が一つになるツール

 

 

調査・診断・仕様をまとめたプレゼン・シート 

 調べた結果に基づき、保全や改良方法を”診断書”にまとめます。仕様(施工計画、最近は「サマリー」という言い方も)には事例や工程画像なども入れ、通常はA3判1シートにまとめます。これに「詳細版」としてA4判の頁物を加えたり、見積書を一緒に綴る場合もあります。

 プレゼン・シートはもちろん、お客様に提案するためのメイン・ツールですが、業者さんへの”見積依頼書”としての役割も兼ねています。

 

業者さんとはもちろん、オーナーさんとも! (メールと電話だけで可能) 

 通常はこのシートを業者さんにも配布し、現地打合せなどを行った上で積算してもらいますが、彼らは1社とは限りませんし、現地下見も一緒にできない場合もありますので、早くからメールでのやりとりに代わっています。遠隔地のオーナーさんがこのしくみで工事契約するケースも増加しています。

 この方法に慣れると、”現地集合”はほぼ無くなり、たまに電話での補足説明だけで済むようになります。

 

 D+関連の元請けでは、複数社への依頼は一斉メールですが、同業種同士の”見積競争”という意味合いは少なく、塗装、防水、鉄骨・・・といった施工業者それぞれに「一斉送信」する方法で迅速化を進めています。

 

 口頭や図面や文字では伝わらないインパクト

 下左の補強策は、一般に設計者と業者間なら口頭で済みますが、お客様とでは適切ではありません。CAD図面で提示しても理解いただけるかどうか分かりません。では、その横のPlan(テクニカル・イラスト)ならいかがでしょう?

 

 下右の錆付いた階段の補強策も同じです。

 鉄骨屋さんとなら「一本柱ではサビが心配で危ないから、もう一本ずつ平行に足して・・・」と、話しだけで通じますが、

お客様の場合は「柱が増えたら、自転車は通れなくなっちゃうかも??」と別のイメージ・・・。

 が、Plan(合成画像)を見ていただくと、「えッ、もう工事やっちゃったの?」。

「まさか、これは『完成予想図』で、こんな感じで補強したらと・・・」

「ああ、ビックリした・・・これなら良いわね、じゃあお願い・・・」。納得いただけそうです。 


 

顧客を含め、関係者みんなの共通ツール

 「言った、言わない」、「聞いた、聞かない」の(悪しき)習慣がなくなり、問うとすれば「見たか、見なかったか」。

様々なリスクを減らし、ベネフィットたっぷりのこのツール。お客様、設計企画者、施工業者が一つになるためのコミュニケーターになっています。

 

 

複数社の競争で較べたい? そんなときは『プロポーザル方式』も~

 官公需の「一般競争入札」では、発注側が事前に仕様と最低価格の積算を行い、参加業者は仕様をもとに見積を出しますが、その額が最低価格を下回ると受注できないようになっています。安値競争により手抜きや質の低下を防ぐ目的があるからです。

 しかし、一般市民の住宅やアパートでは、修繕すべき部分がよく分からなかったり、インセプション(調査・診断)もサマリー(修繕仕様)などの事前準備はまずありませんので、参加業者それぞれの見方や思惑で積算することになります。

 実際もこのようなケースが大半のようですが、その結果、「パテ補修(※1)は無料にし、とにかく安く出しておくか・・・」側が、「品質第一」側を凌駕することになるのです。

 

 そこで、一般の皆さんが複数の業者から見積を較べたい場合、「何をどうすればベストか、提案も含めて見積りしてください」と、官公需でも一般的になったプロポーザル方式(※2)で競ってもらう方法があります。これにより、金額だけではなく仕様、施工法、実績も含め総合的に較べることができます。

 

※1 パテ補修のリスク(下) 少々の補修ならパテが便利に使えて良いのですが、弾性や防水が必要な部位に使うと短期間で剥離し再発します。下の事例は、サイディング壁材とサッシの間で起きやすい凍害個所にパテ・カバーした跡で、経年により再発し前より損壊が進んでいる様子です。 

:塗装間もない窓下の凍害個所をパテ補修した部分が再発。そのはパテ個所に亀裂ができている。剥離の初期。

左下:凍害個所をパテ補修した跡で、その表面膜が浸入水の排出を塞ぎ、内部腐食を広げている様子。  

:凍害再発を抑える外壁補修のセオリー。外壁の部分取替え(無錆ビス使用)後の様子で、これから目地10㎜+に防水シーリングを行って塗装工程に進む。

 

※2 プロポーザル方式 業務の委託先や建築物の設計者を選定する際に、複数業者に企画を提案してもらい、その中から優れた提案を選定すること。proposalは企画・提案の意味。事業提案方式とも。 



 

-5 プレゼン 2⃣デザイン・カラー

もっと魅力的なアパートに生まれ変わりましょう!の”見える化"

 

Presentation2⃣ 前よりも高い価値のアパートに生まれ変われる!この期待や想像を可視化したものがパース(完成予想図)です。

             (下のパースはプレゼン用のパースではありません。実例は『ビフォーアフター』に掲載しています)

 

パース(完成予想図)は標準4パターン、A3判シート 

 パース制作は「マスク」方式を採用し、現況の実写画像をレタッチした上に重ねています。カラーチャートはハイライト&シャドーを考慮して2パタン化していますので、塗材色番と合わせやすく、次の板塗サンプルにも進みやすいよう配慮しています。

下:マルチカラーやストライブなど、カラー・コンビネーションも 

 業界でよく使われる”着せ替え”ソフトにはないダイナミックなプレゼンが行えます。上下の切替えやストライプを用いたコンビネーションも自由自在、カラー数も特に制限(※)はありません。 

 下は、現況画像を基に1・2階のカラーを切替え、また、横ストライプを複数本を入れ、夫々のカラーも変えていますが、その中から4点をセレクトし、A3判にレイアウトします。通常は1回のプレゼンでほぼ決まります

 

 パソコン(PC:画面色)に色数制限がないとはいえ、現実的には限界があります。PCでは画面の発光色=「加色法」を基に制作し、それを紙に印刷=「減色法」して見ています。建物の場合も材料や塗材からの反射光=「減色法」で見ています。パースの色と較べることは、PC画面色、印刷色、建物からの反射光とそれぞれ違った性質の色を見較べることを意味し、これが差異のもとになっています。三原色を加色法で混ぜると明色(白色)に、減色法では暗色(黒色)になる、といった真逆の現象は象徴的です。

 それらによりパースと同じ色を印刷物である色見本帳から選ぼうとしても微妙に一致しないのです。外壁色を決める際は、パースで選んだ次に、明暗や彩度を少し変えた板塗を試作し、その中から最終的に決める方法が適切です。

 

下:元画像も修整が必要です 

 現況の実写画像を用いる際、元々老朽化はじめ何らかのダメージある現況画像でしたので、そのままに使うことはできません。建物周囲の煩雑、窓の洗濯物、バルコニーの雑多などなど、下のように荒れた”ビフォー”が大半ですので、これをできる限り”アフター”に近づくよう修整します。これをレタッチと言います。



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