Technical Guidance Part-2
<特集>アパートの再生デザイン
調査・診断/修繕仕様・積算/プレゼン/デザインカラー
Contents
research report 2022
アパート・リフォームの適任者は?
― は じ め に ―
元請けの不動産企業と施工業者と共に、この事業の在り方について試行~実践を重ねながら、診断~プレゼン~契約~施工までのシステムづくりに取り組んできました。
待つ営業から提案する営業へ
それらは、今までのような受動的な営業から、攻める=能動的な体制への転換と、顧客の資産保全や向上を同時実現することが目標にあったからです。
能動的とはプレゼンと営業方法の見直しを意味し、資産保全や向上は、大規模修繕により空室が減ったり賃料が安定したり増えることです。具体的にはホームページ全体に盛り込んだつもりですので、ここでは触れません。
その中で一つ気になっていることが、施工技術や仕上方法のバラつきについてで、仕事がら、他社の事例を見る機会がたくさんあり、勉強になるグッドジョブもありますが、その逆も数倍は目に入ってきます。
そろそろ『アパート専門の業者さん』が出てきても・・・。でもマーケットや適任者は? 色々と浮かんでは消えの繰り返しです。そこで、データを整理し客観的に現わしてみるか、が今現在の立ち位置、ということでしょう。
基にしたデータですが、売上や利益高・率といったリアルデータを構成比に換えています。
気づかれると思いますが、私たちと塗装屋さんとでは『外構』や『その他工事』の比率に違いが出ています。これはとても大切な点ですので、前半で少し説明します。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1築26年が修繕頃合い?どんな業種が向いているの?
ここ最近、塗装屋さんがネットで営業するケースが目につきます。この地域で何社がどの程度展開しているのか推計できませんが『屋根・外壁の修繕・塗装=塗装屋さん』の構図が定着しているように感じます。
さて、グラフをいくつか示しましたが、私たち元請け側と直受けまたは下請両建ての塗装業者(ここでは「塗装屋さん」という)との関係は競合?対立?適任はどっち?・・・そのあたりが見えれば幸いです。
基になったデータですが、先に触れた通り、工事高から施工分野別に構成比に換えています。
グラフには記していませんが、築年数は両極端を除外した19~35年が対象で、修繕工事時点では26年という結果です。
2アパートの造りは木造2階建てが大半?
ここに登場する塗装屋さんの主たる受注先は戸建住宅でアパートではありません。アパートを受注した場合でも主な工事分野は塗装中心になります。
また、アパートの建築様式といっても木造~鉄骨、メーカー系~地域の建設会社などいろいろですが、木造二階建て、大壁工法、7割前後の外壁が窯業系サイディングが大半ですのでこれをベースに考えます。
3リフォーム=塗装ではないの?
そもそもの話、塗装屋さんたちに光が当たる始まりは、旧来からの真壁(しんかべ)工法が大壁工法に変わってからだと思っています。それまでは大工や左官であったものが入れ替わり、さらに直受型にも分岐し始めています。
左のような保全されている建物※は別ですが、今日のネットやスマホ社会の側から見ると、大工・左官の仕事より塗装のほうが可視化されるため、いわゆる成果が”見える化”し有利になる構図です。
だからといって、その彼らが元請けを担えるかどうかは、議論の余地があります。
一人前になるまでの職制や徒弟制度などの文化的な側面からも観てみたいものですが、ここでのテーマではありません。ただ、パラダイム(基盤となる考え方・事業哲学)の違いがグラフの構成比に表れていますので、そこは興味深い点ではないかと思います。
※商家の歴史的建造物が丁寧に保全されています。造りは真壁工法で、大工・左官の仕事ぶりがよく見えます。
現在は法令上も条件が厳しく、街中で建てるのは困難です。(横手市増田町/筆者撮影)
4パラダイム、何が違うの?
私たちは、アパートは事業資産として<収入-支出=利益=価値>から捉え、空室率や賃貸料の上がり下がりを強く意識します。リフォーム事業もそれらに直結したアクションです。
具体的には、外構や鉄骨保全、リノベーションなど塗装以外の割合が高くなります。また、防災機器や残置物の整備※まで視野に入れています。
一方、戸建(持ち家)では生活環境の維持が最も重要で、通常は価値化についての意識はありません。リフォームは保全目的の外壁や屋根塗装が主で、屋内では台所・トイレ・浴室の修理や改善が大半を占めます。
以上のことから、アパートと戸建持ち家ではパラダイムにも違いが出ますが、不自然なことではありません。
※右↗は空室率の高い、つまり空き部屋の多いアパートに特徴的な光景です。
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グラフの内容に入りますが、下の3点から見てみます。
5G-74-25・軽鉄アパート-平均的修繕 グラフ:上左↖
築後20~30年半ば、軽鉄メーカーのアパートです。私たちでも塗装屋さんでも、一般的に見える範囲の劣化だけ手を付ければ良いケースで、専門的な診断の必要度は高くありません。
足場、コーキング、塗装の三分野で完結でき、塗装屋さん達には“お得意さま”になるでしょう。作業が自己完結できるため、高い利益率も見込めるのではないでしょうか。
D-72・アパート・平均的修繕 グラフ:上右↗
E-62・アパート・平均的修繕 グラフ:横右→
2点とも最初のグラフ同様に工事数・金額共に平均帯域にあります。通路や階段の防滑シート貼替えなど、塗装以外で違いがありますが、構成比の大差にはなっていません。
ただ、アパート全体に言えることですが、所有者が所在地以外や東京などの都会に住んでいる場合も多く、商談やプレゼンテーション(診断/仕様・見積/デザインカラー)といった工事以外のコストが増えます。グラフでは、「設計・管理費」の中に含んでいます。
6 F-66・軽鉄アパート・屋根カバー グラフ:←左
最近、老朽化したスレート屋根(商品名:コロニアルなどの人造材)にガルバリウム鋼板を被せる「カバー工法」(D+関係では構法という)が一般化し、塗装屋さんも板金分野まで領域拡大をはかっているようです。
スレート材は、材質性能、アスベストなどの有無・割合、時間軸と劣化の関係、といった物性面の係数や計算法がなく、実際の損壊や雨漏りがない限り、修繕頃合いの判断が難しい建材です。
私自身は、経験的に築後30年前後、損壊程度、劣化雰囲気などで総合判断していますが、他ではどうしているのでしょう?
左のグラフでは4割程度カバーコストが占めています。営業的にはこれを受注すると売上が4割近く増えることになり、塗装屋さんにとって魅力的な分野ではないかと思います。
7 C-45-63・2階建 戸建住宅 グラフ:右→
昭和年代、築後半世紀に迫ろうかという木造在来・鋼板葺・モルタル外壁2階建ての建売住宅で、1981年(昭・56)建築基準法改正、いわゆる「新耐震」前の建物になりますが、先の震災でも耐えています。経年による劣化はかなり進んでいますが、内外それなりに手を加えれば充分住み続けられます。
塗装シュアは2割5分未満ですので、塗装業が手を出すメリットは、どうでしょう?
最後のまとめで述べますが、ここらあたりの比率が”分水嶺”のようでもあります。
8 B-38・アパート・20世帯 グラフ:下左↙
築30年を超える大ぶりの木造2階建アパートです。東西各棟の間に錆の目立つ鉄骨通路があり、老朽化をより象徴的に見せています。
ハコが大きい関係で溶接補強、錆落し、外壁修復や再コーキングで手間がかかり、塗装自体はその割でもありませんが、6割強が塗装分野で占めました。あらためて『修繕とは人力と手仕事の世界である』と再認識させられます。
9A-30・アパート・通路階段鉄骨修繕 グラフ:上右↗
↑左の「B-38・アパート・20世帯」同様、2階建木造で、鉄骨通路・階段の穿孔や損壊が“危険レベル”に達しています。何のメンテも無い場合の”劣化見本市”みたいなケースですが、それ以外の内外は比較的悪くありません。そのため、鉄骨再建とそれに接する外壁補修で4割強を占め、塗装比は3割弱に留まります。塗装屋さんに限らず元請業者になった場合、リスクの割にベネフィット(恩恵)はどうかな?かもしれません。
前項の7、8にも共通しますが、問題個所は目視では確かめられない点が多く、そこができないと”地雷“を踏むことになりそうです。
大袈裟に感じるかも知れませんが、こういったケースでは”見えないものを診る“能力が必要なようです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まとめましょう。
前半3つのケースは、直受型の塗装屋さんが自社施工できる点から適任のようです。また6項の「F-66・軽鉄アパート・屋根カバー」は、彼らには魅力的な分野でしょう。
右グラフ『塗装業の領域』で分かるように、工事の平均帯域では足場架設を含め60~80%が彼らの領域に入ります。
比率の低い(であろう)『外構工事ほか』や『設計管理費』を除けばさらに増えるでしょう。
後半3点はベテラン職人を抱える工務店や地域建築業に向いているように思えます。
適任の業者さんポイントが多少見えた感じですが、いかがでしたか?
今回、修繕工事の施工分野別で較べましたが、営業方法、建物や所有者との向き合い方、デザインの役割、北側水回り、屋根の無い通路や階段といったアパート特有の脆弱性なども深めていただきたい次代テーマです。
2022.03 デザイン・プラス・フォーラム主幹
◆参考資料・統計
空き家(室)賃貸32,000戸・≧11%(全国14)/戸建持ち家:築30~40年18%・41年以上旧耐震22%/公営:16536戸/省エネ普及(二重窓)賃貸17.7%/新築数=2019年9936戸・賃貸5087(5割)/増改築=考えていない45%・施工個所=台所WC54%・屋根壁45%・内装32%/転入者(5年内)=民間賃貸から民間賃貸へ52%(内53%市外から転入)/築30年以上の中古住宅販売が最多数/仙台人口1,097,421人・529,497世帯(2018年度・仙台市資料より)